サブカルworkshop

【ショートアイデア】「みざる、きかざる、いわざる」

A「なぁ」

B「ん?なんだ?」

A「『みる』ってさ、色んな漢字あるじゃん?あれ、『目』の下に足生えたやつとか」

B「『見学』の『見る』だな」

A「そう、それ。あと、その『見る』の横になんか足したやつ」

B「『観察』の『観る』だな」

A「そう。それってさ、なんか違いがあるのか?」

B「あるよ。『見学』の『見る』は、無意識に物が視界に入ってくるときに使って、『観察』の『観る』は、意識して目で追うときに使うんだ」

A「あ~なるほどなぁ。確かに『観察』とか、あと『観劇』ってこう意識して『観てる』もんな。ん?待てよ。でも、『見学』だって意識して『みてる』じゃないか。まさしく『観て』学ぶじゃないか」

B「お前バカだな~。体育の授業を見学して何を『観て』学ぶんだよ」

A「確かに!全然授業なんか気にしてない。サボれてラッキーって思う」

B「だろう?」

A「確かに確かに。じゃあさ『きく』も色々あるけど、それも同じような違いがあるってことか?」

B「そうだな。『新聞』の『聞く』は自然と耳に入ってきて、『盗聴』の『聴く』は自分から耳を傾けてるってことだな。英語で言う"hear"と"listen"の違いだな」

A「なるほど。"Listen to me"、『俺の話を聴け』だもんな。いや、でも、クレイジーケンバンドの歌詞って『俺の話を聞け』じゃなかったっけ?」

B「ん?そうだったか?」

A「ああ。うん。確かそうだった」

B「それはだな。配慮だよ」

A「配慮?」

B「だって、あっちの『聴く』じゃ読めない人がいるかもしれないだろ?」

A「確かにあっちの『聴く』は漢検3級だしな」

B「え?そうなの?」

A「ああそうだよ。でもさ、"hear"って『ヒアリング』ってあるじゃん?ほら、会社が不祥事起こしたときに、社員に『ヒアリング』するみたいな。あれって社員の話に耳を傾けてるよな?」

B「え?それか・・・。それはだな。そう、ああいうのは形だけなんだよ。別にヒアリングしようがしまいが、会社は誰を処分するか、どう対応するかっていうのはもう決まってるんだよ」

A「えぇ・・・。社会の闇だな・・・」

B「そうだ。だから、俺たちはそんな闇を見ないし、聞かないし、言わないんだ」

A「いや言っちゃってるじゃん。でも『闇』ってさ、暗くて見えないってことじゃん。なのに、漢字に『音』があるのおかしくない?」

B「は?もう次から次と・・・。それはだな、門が音を閉ざしてるんだよ。だから、闇は見ない、聞かない、言わない」

A「そうか・・・。見ざる、聞かざる、言わざるか・・・」

B「そうだ。見ざる、聞かざる、言わざるだ」

AとB、目をつぶり、耳を塞ぎ、口を閉じる。

暗転