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【感想】ドラマ『映像研には手を出すな!』第壹話

 ドラマ放送開始前、原作が面白いのは勿論のこと、アニメの完成度があまりにも高かったがために、実写のハードルが高くなるという結果に。ただでさえ実写化に対する風当たりは強いというのに。そんな中ドラマの予告映像が公開。

この映像を観て、実写の評価の分かれ目の一つとして、浅草みどり役である齋藤飛鳥の演技が挙げられるのは確実だと思った。個人的には原作を読んだ時の浅草氏のイメージは齋藤飛鳥の演技に近いのだが、アニメの伊藤沙莉の演技がしっかりイメージを塗り替えてくれた。だからこそ、齋藤飛鳥が実写独自の浅草氏のイメージを打ち立てることができるかどうかが、成功のカギになるのではないかと。

ドラマ放送開始!

 実際に始まってみると、これまでの心配はただの杞憂だった。最高の実写化だった。浅草氏のイメージどころか、ストーリー展開までもが実写オリジナルになるとは。それでも決して原作の軸を壊さず、しっかりと押さえるべき要素を押さえていることに、原作への愛とともに、制作側の工夫を感じた。
 まず映像研3人の演技は、原作をベースにキャラクターを自分たちのものにしている。齋藤飛鳥演じる浅草みどりはよりコミュ障をこじらせつつ、話し方からは好きなものに対するピュアな思いが感じられる。山下美月演じる水崎つばめはカリスマモデルの説得力が増し、それでも嫌みのない魅力的なキャラになっている。梅澤美波演じる金森さやかは金稼ぎに対する貪欲さは変わらず、原作よりも感情は熱を帯びたものになっており、人間らしさというものが強まっている。
 また実写オリジナルの展開については、映像研以外にオリジナルの部活動・研究会の登場する。これにより、舞台となる芝浜高校のカオスを表現している。今回では、普段応援されない立場の人たちを応援する応援部、野球部の内部分裂により生まれた外野部・内野部。そして、これらの活動を管理することで、大・生徒会の強キャラぶりを感じることもできる。実際、書記のさかき・ソワンデは原作から飛び出したかのような存在感であり、斬り込み隊長の阿島九は原作からキャラが補強されておりドラマオリジナルの活躍を見せる。
 一方で、映像研の3人も原作のエピソードを準拠しつつ、独自の動きを見せる。例えば、ドラマでは、水崎氏が川に飛び込んでびしょ濡れになったことで、浅草氏、金森氏とともにコインランドリーへ行く。それに対し、原作では、浅草氏が水崎氏を担いだために、持っていたいちごミルクがこぼれて水崎氏はびしょ濡れになる。しかし、実際に女性が人一人担ぐのは簡単なことではなく、漫画だからこそできる表現である。だからこそ、実写ではドラマオリジナルの展開をつくることでそれを解決した。また、水崎氏がGHQもとい黒服から逃げるシーンでは、警備部・応援部までもが参戦し大混乱になる。これにより、応援部の存在をしっかり回収し、ただ原作を再現するのではなく、原作ファン・アニメファンにも新たな刺激をもたらしている。
 原作改変とは別の話になるが、黒服に追われている水崎氏を見て、浅草氏がスケッチブックにアイデアを書くシーンで、すべて書き終わってからその中身を見せるのではなく、途中過程も映っていて、そこら辺凝ってるなと思った。

カイリー号テイクオフ!!

 コインランドリーにて、浅草氏と水崎氏はお互いにスケッチブックを見せ合う。水崎氏の描いたメカを目にした浅草氏は創作意欲を爆発させる。想像の世界は現実世界とシームレスに描かれており、そこでのメカの設定の増強を線画により表現され、完成したカイリー号はアニメーションではなくVFXによって誕生する。まさか深夜ドラマでここまで完成度の高いVFXが観られるとは思わなかった。映画制作を前提とした強みを感じた。3人が最強の世界を目撃したシーンには不覚にも涙が出そうになった。
 カイリー号をアニメーションで表現しないことに関してやや否定的な意見が見られるが、これは解釈の違いによるものだと思う。個人的には、浅草氏の最大の目的は最強の世界を「描く」ことではなく、「存在させる」ことではないのかと思う。つまり、浅草氏にとってアニメーションは目的を達成するための手段ということである。もちろん、浅草氏はアニメーションを愛しており、決して金森氏のような金儲けの手段としてフラットに見ているわけではない。そもそも原作では浅草氏の幼少期の夢は冒険家であった。団地に引っ越した時には、団地中を探検し独自の設定を思いついてはノートに書き留めていた。このときの浅草氏の最強の世界に対するイメージは実写寄りだったのでないかと思う。そして、そのような世界を冒険したいと夢見ていたのではないかと思う。しかし、ある日の『未来少年コナン』との出会いにより、最強の世界を冒険するという夢は、最強の世界をアニメーションで描くという形に変わったのではないかと思う。だから、想像の世界が現実世界とシームレスであることも、カイリー号をアニメーションで描かないことも、間違った演出ではなく、独自の解釈によるものだと自分の目には映った。

これが最強の世界

 色々と綴ったが、これは個人の感想であり、第壹話を観て自分に合わなければそれは仕方のないことである。ただし、観ないで否定するのだけは勘弁してほしい。確かに、原作・アニメに比べて、実写の映像研3人のビジュアルは可愛くなっている。そのせいで魅力がなくなったという意見も見られる。しかし、この作品がビジュアルで語るものではないことをみんな理解しているはずだ。アニメの銭湯のシーンで性的な描き方をしていないと盛り上がっていたじゃないか。ドラマで乃木坂メンバーは自身の可愛さを振りまいていない。彼女たちは純粋に『映像研』の世界を表現している。原作を単にトレースせずに、実写なりの表現で最強の世界を描こうとしている。だからこそ一度でいいから観てほしい。細工は流々!仕上げを御覧じろ!