サブカルworkshop

『映像研には手を出すな!』がメディアミックスの良い参考資料になるかもしれないという話。

『映像研には手を出すな!』プロジェクトから目を離すな!

 大童澄瞳の漫画を原作としたTVアニメ『映像研には手を出すな!』がNHKで絶賛放送中ですが、4月からは実写ドラマ、5月からは実写映画が控えており、『映像研』はこれからもっと注目されることでしょう。
 しかし、TVアニメの完成度・注目度の高さから、実写化に一抹の不安を抱えている人も少なくはないでしょう。その上、主要メンバーを乃木坂46=アイドルが演じるということで拒否反応を示す人もいるでしょう。自分は、乃木坂メンバーによって実写化されるというニュースから原作を読み始めましたが、「面白い」と同時に「これは実写化無理だろう」というのが感想でした。
 ただ、映画の公式Twitterにアップされる画像から、また毎週放送されるアニメから、『映像研』に関する一連のプロジェクトが単に面白い作品を届けるだけではなく、漫画・アニメ・実写の表現の違いを伝える意義あるものではないかと、私は考えるようになりました。このため、本記事では、原作漫画の魅力とは何か、なぜアニメがここまでの注目を浴びているのか、そして実写化に何を期待しているのかについて、私なりの考えを綴っていきたいと思います。

漫画でアニメを表現すること

 まず原作漫画の魅力とは何でしょう。魅力を語る上で、第1話の水崎ツバメが描いたメカを浅草みどりとともにブラッシュアップするシーンを挙げたいと思います。そこでは、メカの完成図が設定と一緒に見開きで示されます。これを初めて見たとき、幼少期に読んだ『かいけつゾロリ』シリーズを思い出しました。別に本編に絡むわけではないが、こういった細かな所にどうしても心が惹かれてしまう。そして、ここから浅草氏の「最強の世界」がどのように形になっていくのかが楽しみで、漫画全巻を購入する決意をしました。
 また、本編を通してアニメ制作のリアルが描かれていますが、これはプロデューサーを務める金森さやかの存在による所が大きいです。浅草氏、水崎氏の大衆には伝わりにくいこだわりを金森氏が改善させたり、制作だけにとどまらず、いかに多くの人に作品を届けるかといった宣伝についても描かれています。このように、単に高校生がアニメを作るというよりは、プロとして作品に向き合うというストーリーが、実際のアニメ制作の過程を窺うことができて、大変興味深いものになっています。

アニメ化による原作世界の補強・拡張

 次にアニメが注目される要因についてですが、その一つとして「アニメオリジナルのエピソードによる原作エピソードの補強」が挙げられます。
 例えば、7話「私は私を救うんだ!」冒頭での水崎氏の幼少期のエピソードがまさにそれです。水崎氏は、祖母が器に残ったお茶を庭に撒いたときの液体の動きに魅了され、祖母に同じことをするよう何度もせがみます。また、子役の養成所とみられる所で様々な動作を観察しデッサンします。これらのエピソードによって、原作にもある「私は『アニメ』じゃなくて『アニメーション』を作りたい」という水崎氏のセリフの意味を視聴者はより理解しやすくなります。そして、お茶のエピソードは、こちらも原作にある銭湯で浅草氏が何度も水をかけられるシーンとリンクする形になります。このように、アニメオリジナルのエピソードが、原作エピソードを掘り下げる形で違和感なく織り交ぜられているのです。
 他には、1話の浅草氏たちが黒服の男から逃げるシーンや、8話の映像研とロボ研が生徒会の制止を振り切って上映会を宣伝するシーンにも、アニメオリジナルの展開が盛り込まれています。ぜひ原作漫画と比較してみてください。

 また、浅草氏の頭の中にある空想世界の描かれ方が面白くて、水彩画のようなタッチによって現実世界と区別された描かれ方がされています。原作の方では特にこのような描き分けはされていませんが、この手書きのような描写によって未完成感があり、登場人物と視聴者が同じ目線に立って空想世界を楽しめる仕掛けになっているように感じられます。

実写への期待

 最後に、実写化について言及していきたいと思います。今回、ドラマ、映画を手掛けるのは英勉監督。近年の作品では『賭ケグルイ』があり、これは概ね成功といえる部類だと思います。他には、『ぐらんぶる』、『東京リベンジャーズ』の年内の公開が予定されており、実写化作品を今年だけで3作も手掛けており、これまで以上に注目を受ける監督になると考えられます。そして、映像研の3人を演じるのは乃木坂46のメンバーで、浅草氏を齋藤飛鳥、金森氏を梅澤美波、水崎氏を山下美月が担当します。
 みなさん色々不安だと思います。その上、実写化することが発表されたとき、原作者、監督、プロデューサー、キャストのコメントが揃いもそろって「どうなるかわからない」でした。しかし、これはまさに「最強の世界」を描こうとしている浅草氏そのものではないかと。原作自体が現実の人間が架空の世界を描く物語であり、これこそ実写化すべき作品なのではないかと私は思います。そもそも漫画とアニメだって表現方法が違うわけで、それは原作を読んでる人だったらわかることだと思います。それならば、実写も異なる方法で『映像研』を表現するだけだと思って、どっしり構えていればいいんだと思います。原作よりも可愛くなった映像研3人を愛でればいいんです。
 決して投げやりになっているわけではありません。実際の所、かなり期待しています。というのは、今年公開された英監督の『前田建設ファンタジー営業部』が素晴らしい作品だったからです。

この映画は実在する企業がマジンガーZの格納庫を設計するというストーリーで、架空のものに真剣に取り組む人たちの姿が描かれており、どことなく『映像研』と重なる所があります。だから、この人なら見事に実写化してくれるのではないかと期待しています。確かに架空の世界をどう表現するのかという不安材料がありますが、これこそ「細工は流々!仕上げを御覧じろ!」(浅草氏)ですね。
 これが成功すれば、漫画、アニメ、実写の表現の違いが手に取るようにわかると思います。そして、それぞれのファン層が境界を越えて混じりあっていくのではないかと期待しています。手始めに4月からのドラマを楽しみにしましょう。